相続した空き家を売却し、利益が発生したら譲渡所得税を支払う必要があります。
しかし、一定の条件を満たすことで「空き家特例」が適用され、節税することができます。
空き家特例は、「相続空き家3,000万円特別控除」とも呼ばれます。
この特例が適用できれば、売却した際に3,000万円を控除できます。
今回は、相続した空き家を売却しようとお考えの方に向けて、空き家特例について紹介します。
適用要件や注意点、よくある質問などを紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
Contents
□3,000万円が控除される空き家特例とは?
「空き家特例」は、相続によって空き家を引き継いだ人がその空き家を売却し、それにより得た利益から3,000万円控除できる制度です。
簡潔に言うと、3,000万円で売却しても、特例を適用することで税金を0円にできるということです。
譲渡所得は、「譲渡価額-必要経費(取得費+譲渡費用)-特別控除3,000万円」で計算できます。
それぞれの概要は以下の通りです。
・譲渡所得:不動産を売却した利益
・譲渡価額:売却価格
・取得費:不動産を購入した当時にかかった費用
・譲渡費用:売却で発生する諸経費
□適用要件について
空き家特例は条件を満たさなければ利用できません。
その条件について紹介します。
1.一人暮らしであること
空き家特例は、空き家をなくすために設けられた制度です。
そのため、被相続人が亡くなった際、一人で暮らしていた場合に適用できます。
被相続人に同居人がおらず、相続人が亡くなった方の住んでいた空き家と敷地を売って利益が発生した場合のみ、利益から3,000万円控除することが承認される仕組みです。
2.昭和56年5月31日よりも前に建てられた建物に限る
特例を利用できるのは、被相続人が住むために「昭和56年5月31日よりも前に建てられた建物とその敷地」です。
区分所有建築物は除外され、建物を壊して更地にし、敷地だけを譲渡するか、耐震基準を満たすために耐震リフォームをしてから引き渡しする必要があります。
ただし、耐震基準をクリアしている建物であればそのまま引き渡しても特例を利用することが可能です。
3.相続から譲渡まで空き家である
相続後、その家や敷地を事業用として活用した場合、空き家特例は適用されません。
つまり、相続から譲渡するまで空き家でなければならないのです。
例えば、賃貸や駐車場として貸し出ししたり、相続人が相続後に一度でもその家に住んだりすると、適用期間内であっても適用外となってしまいます。
そのため、相続した空き家の売却を考えている方は、安易に活用しないようにしましょう。
なお、相続後空き家であることを証明するためには、売買契約書のコピーや電気・ガスの閉栓証明書、水道の使用廃止届書などを提出し、「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を受け、確定申告書に添付します。
4.令和6年1月1日以後の譲渡から買主が耐震改修等をしても適用対象となる
令和6月1月1日以後の譲渡から、売買契約に基づき買主が譲渡日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修の工事をした場合、譲渡後に工事をしても適用することができます。
5.平成31年4月1日以後の譲渡より老人ホームへの入居者も適用対象となった
平成31年度に行われた税制改正によって、以下の要件やその他の要件を満たす場合のみ特例を利用できるようになりました。
・被相続人が老人ホームに入所した時点において、介護保険法に規定する要介護認定を受け、さらに相続が始まる直前まで老人ホームに入所していた
・被相続人が老人ホームに入所したときから相続が始まる直前までその家屋が一定使用され、さらに事業用や賃貸用またはその者以外が住むために使われていなかったこと
また、以下のいずれかの書類が必要なので、準備しておきましょう。
・電気、ガス、水道の契約名義、使用中止日が確認できるもの
・老人ホームが所持する外出、外泊の記録
・市町村が認める者が家屋を管理をしていたことが分かる証明書
・不動産所得がないことを確認する地方税の所得証明書
6.譲渡対価が1億円を超えるものは適用対象外
建物や土地の合計譲渡価額が1億円以上になる場合は、特例を適用できません。
2回以上に分割して売却しても、合計で1億円以上ではないかどうかを調べられます。
また、共有者がいるケースでは、その合計金額で判断されます。
7.適用前譲渡、譲渡期間内に贈与や低額譲渡がある
この譲渡には、贈与と低額譲渡が含まれます。
そのため、相続日から譲渡日以後3年が経つ日の属する年の12月31日までに贈与があった場合、贈与時の価格や低額譲渡時の価額を合わせて計算し、1億円以上かどうかを判定します。
対象資産の譲渡と前後する贈与や低額譲渡において、期間内での合計価額が1億円以上にならないように注意しましょう。
□空き家特例の適用を受けるときに気を付けるべきこと
*納税額が0円でも確定申告が必要
特例を受けるためには、書類を揃えて確定申告をする必要があります。
そのため、控除により所得がなくなり、税額が0円になるケースでも申告しなければなりません。
もし、申告しなかった場合は特例を受けられなくなるので注意しましょう。
*贈与で建物を事前取得している場合は特例を受けられない
特例は相続や遺贈によって取得した空き家が対象です。
空き家になった物件でも、相続が始まる直前で所有者が居住者ではない場合、特例は適用されません。
生前に贈与で所有者を変更した空き家は対象外となるので気を付けましょう。
*店舗や倉庫は適用対象外
特例の対象は、相続が始まる直前まで亡くなった方が住んでいた住宅です。
そのため、居住用ではない店舗や倉庫などは特例の対象から外れます。
□こんなときはどうするの?ケース別の注意点
先ほどの章で3つの注意点を紹介しましたが、ケース別での注意点もあります。
以下のケースに当てはまる方は確認しておきましょう。
・兄弟で相続した不動産を売却した
・自宅と相続した空き家のどちらも売却した
・すでに相続で一部を取得していた
1つ目は、兄弟で相続した不動産を売却したケースです。
空き家特例は、相続人1人につき3,000万円の控除が受けられます。
例えば、兄弟で半分ずつの持分で不動産を相続した場合、それぞれ3,000万円の控除が限度であり、それぞれの売却益の全てについて3,000万円の控除を受けられます。
しかし、被相続人の建物と土地の両方を引き継いで売却することが条件となっています。
そのため、長男が土地、次男が建物を相続していた場合、どちらも特例を受けられなくなるので相続の方法には注意しましょう。
2つ目は、自宅と相続した空き家のどちらも売却したケースです。
自分が住んでいた家を売った際は、一定の条件を満たすことで居住用財産の3,000万円特別控除を適用できます。
しかし、同一年中に自宅と相続した空き家を売った場合、2つの特例を併用することはできますが、3,000万円が限度額となります。
合わせて6,000万が限度額とはならないので注意しましょう。
3つ目は、すでに相続によって一部を取得していたケースです。
例えば、数年前に父親が亡くなった際に実家の持分の半分を相続で取得している状況だったとします。
そして、その後母親が亡くなったことで残りの半分の持分を取得した場合、家全体が対象となるのではなく、母親から相続した半分だけが3,000万円控除の対象になります。
□よくある質問について
ここまで、適用条件や注意点を解説してきました。
最後に、よくある質問を紹介します。
1つ目は、土地売買契約で「土地の引き渡し後、建物を取り壊す」特約を結んだ場合、特例を受けられるのかどうかです。
この場合、家屋を取り壊した後の譲渡という扱いにならないので特例を受けることはできません。
2つ目は、相続した空き家を取り壊した後に譲渡したが、取り壊したことを確認できる書面として必要な法務局が作成した閉鎖事項証明書を提出できない場合、どうしたら良いのかです。
閉鎖事項証明書を提出できない正当な理由がある場合は、取り壊した時期や除却対象を確認できる書類を提出します。
例えば、家屋の除却に係る請負契約書のコピーが提出しやすいです。
3つ目は、相続が始まる前において被相続人が家屋を住むために利用していたことを確認する必要がありますが、住民票から確認できない場合、確認書は交付されないのかです。
もし、住民票から確認できなくても、代替書類や補完書類、申請者へのヒアリングによって確認できる場合は交付されることもあります。
4つ目は、老人ホームに入所している間、被相続人が家屋を一定使用していたことに関して、どれくらい使用していたら良いのかです。
「一定使用」は、被相続人が家屋の一時滞在として使っていた場合や家財道具の保管場所として使っていた場合でも該当します。
5つ目は、老人ホームのような施設ではなく、介護のために子の家に住み、そこで亡くなった場合、特例を受けられるのかどうかです。
親族の家や賃貸住宅に転居し、その先で亡くなった場合は特例を受けることは認められていません。
□まとめ
空き家特例は、空き家をなくすために作られた制度です。
適用するためにはさまざまな条件を満たす必要があります。
具体的には、亡くなった方が一人暮らしをしていたこと、昭和56年5月31日以前に建てられた家であること、相続から売却するまで空き家だったことなどです。
適用要件については、必ず確認しておくようにしましょう。
空き家特例を適用できるかできないかで、支払う税金の額が大きく変わります。
特例を利用することで最大3,000万円まで控除できるので、まずはご自身が適用要件を満たしているかチェックすることから始めましょう。
また、納税額が0円の場合でも確定申告が必要なので、忘れず行うようにしましょう。